佐々木実之の歌集「日想」

2012年春の彼岸に急逝した佐々木実之の短歌・歌集を、妹が少しずつご紹介するページです

かりん賞

今日、第34回かりん賞を辻聡之さんが受賞されました。

おめでとうございます!

 

第24回のかりん賞を頂いた、兄 佐々木実之の作品をこちらに載せてみます。

つばめの眠り

かくて静かに雨降る夜を天然のうなぎは沢を登りゆくとぞ

首細く鷺飛びゆくを外に見る窓の高さに我ははたらく

あをあをと芝広がれるゴルフ場ほどの薄さの言葉にて詫ぶ

いくらでも口中に歯を備へたる鮫のかすかな憂鬱を思ふ

大いなる鏡の前に座らされ眼鏡を外せと床屋は命ず

蜂の巣に蜂群れてゐるまひるまを女王蜂仔を生むほかはなく

また一羽飛び来りては去りてゆく奈良とはつばめの多き町なれ

鹿の眼の怯ゆるごとく丸ければ後ろめたきこと我にありしを

仏堂を出づればいつも癖なのか君は両手で帽子をかぶる

遮眼帯つけられて前へ走るといふ馬の素直を羨しみゐたり

原子炉の止まつてゐる夏 中東に日本が銃を持つてゆく夏

一夫多妻の教へはありぬ男らは戦ひに死んで数が減るから

アヲコ浮く運河の上にかかりたる歩道橋こそわんわん揺るれ

淡々とした声をもて見事なる駆け込み乗車を車掌は叱る

夕暮れは超高層ビルを焼く娶ること永遠になからむアトム

氷には白き曇りのあることを舌に確かめつつ人を恋ふ

ふつくらとつばめのつがひが眠りをりかかる眠りの我にもあらな

ストローに副へらるる指蜻蛉の明るき翅(はね)をつまむごとくに

健康を深く愛するニッポンに秋天赤く石榴は裂けて

しばらくは上手くむけしと見てゐしが卵の殻を砕きて捨てる

握らんとするとき君の手の細き兎の耳の白をなすかな

君の手を握りてゐれば夕暮はげんまいぱんのごとく甘きを

なまけもの樹にぶらさげて緑濃き南の森の音を思ふも

人だかり引きてしまへばぽつねんと宝くじ売る赤き四角は

異星人まだ攻めて来ぬ東京に侮るごとく淡雪は降る

真実の口に嚙まるる夢なぞを見てしまひたる通勤電車

端正といふべきひとが我が妻になにかささやきそそくさと去る

今日摂りし塩分の量 きらきらと君への後ろめたさのごとく

くつずみにくつ磨きをりぬばたまのひとりの夜を輝かすべく

飲み下す未明の水の冷たさに夢を見ざりしこと確信す